『すき焼き奉行』

 私の父は昭和ひとけた代、亭主関白ではありませんでしたが、若い頃は台所に立つということはほぼありませんでした。その父が頼もしく思える時が、今晩のメニューが「すき焼き」の時。できあがるまでは誰にも触らせません。

 牛脂でしっかり肉を焼いて、それから酒(我が家ではビールを入れていました)、砂糖、醤油、みりんで味付け。そこに玉ねぎや糸コン、麩、焼き豆腐といった食材を入れますが、その中でも青ネギは他の食材が見えないぐらいの量を投入します。徐々に煮立ってできあがった肉を父がそれぞれの生卵が入ったお皿に取り分けてくれます。その時の父の表情(どや顔?)は今も忘れられません。当時肉嫌いの私でしたが、なぜかこのすき焼きの肉だけは美味しく頂けました。

 仕事で忙しくしているお父さんの活躍の場がこのように家庭内であるといいですね。

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